上書き、した
「ありがとね」
―これで、全部?
「そう、このロータリーで最後」
―映画に行って、ランチを食べて、散歩して…。
「で、このロータリーで…断られた!」
前を見つめて、フッと笑う、彼女。
明日ヒマ?と、昨日ガッコウで聞かれて、イマココ。
―本当に、断られたの?
「うん。あいつ、好きなコがいるんだって」
―ならさ、デイトにつきあうことないよな。
「でも、デイトな気分だったのは私だけだから」
―だからって、わざわざ同じルートをボクとまわる必要ある?
「上書き、した」
―え?上書き?
「女のコはさ、上書きするっていうでしょ。思い出を」
―それは、恋愛に限ってじゃなくて?
「もちろん、それがいちばんなんだけど…とにかく早く、思い出ごと上書きしたかったんだ」
―(…)。
「誰でも良いけど、そんなこと頼めるのキミくらいだから」
ボクを見つめて、あははと笑う、彼女。
気の置けない友達ならではの、距離感。
「ホントありがとね、今日。いつかキミが上書きする時は、私がつきあうよ!」
―それは、ムリだよ。
「……なんで?あ!誰かにフラれることなんかない、自信家だなー」
いや、分からないかな?キミが上書きするのは…。
キミにだけは、ムリなんだけど。
photo・nishida shuhei
text・suzuki sachihiro
stylist・iwamoto kanako
hair make・sakate maki
update・2021.10.1
あきた・しおり
3月19日生まれ
https://www.stardust.co.jp/section1/profile/akitashiori.html